第1話 白内障手術はいつ受ける?「まだ見えるから大丈夫」と迷っている方へ
- ブログ
- 2026.10.20
診察でとてもよく聞く質問です。私が大切にしているのは、視力の数字だけではありません。今の見え方で生活にどれくらい困っているか、その原因が白内障なのか、そして手術でその困りごとが改善しそうか。まず、この三つを考えます。
「視力0.5になったら手術」ではありません
白内障手術には、「視力が0.5になったら受ける」という一律の線があるわけではありません。同じ視力0.7でも、夜に運転する方と、主に自宅で過ごす方では不便さが違います。
夜の対向車のライトがつらい。パソコンの文字が見づらい。テレビの字幕を見ると少し前に出る。ゴルフのボールを追いにくくなった。こうした変化は、診察室の視力表だけでは拾いきれません。だから私は、視力の数字だけで判断するのではなく、「最近、何が見えにくくて困っていますか」と聞くようにしています。
「まだ見えている」の中に、我慢が隠れていないか
白内障は徐々に進行することが多いため、患者さん自身が少しずつ生活を見えにくさに合わせてしまうことがあります。夜の運転を避ける。細かな作業を家族に頼む。趣味を以前ほどしなくなる。
その状態でも「まだ見えている」と言えるかもしれません。でも、本当は「見えている」のではなく、「我慢できている」だけかもしれません。もちろん、困りごとの原因が白内障とは限らないので、眼鏡の度数、ドライアイ、黄斑や視神経の病気など、別の原因がないかも確認します。
困っていなければ、急いで手術する必要はありません
白内障があるからといって、すぐに手術をする必要はありません。生活にほとんど困っておらず、目の状態からも急ぐ理由がないのであれば、定期的に診察しながら待ってよいと思います。
特に、自分の水晶体にまだ調節力が残っていて、白内障があってもまだ程度が軽く、眼鏡で十分生活できている方では、急いで手術をする必要はありません。白内障手術では自分の水晶体を人工レンズに置き換えるため、まだ残っている自分の水晶体の調節力は失われます。
一方、先延ばしにすることにも、いつもメリットがあるわけではありません
白内障は、待てば自然に元の透明な水晶体へ戻る病気ではありません。進行すると水晶体が硬くなり、通常より多くの超音波エネルギーや慎重な操作が必要になることがあります。
特に偽落屑がある目では、瞳孔が開きにくかったり、水晶体を支えるチン小帯が弱かったりすることがあります。また、狭隅角や閉塞隅角緑内障など、水晶体の厚みや位置が眼圧に関係している場合には、視力だけでなく緑内障の観点から白内障手術を検討することがあります。
ただし、隅角が狭い、偽落屑があるというだけで、全員がすぐ手術という意味ではありません。目の状態を個別に見て決めます。
私は「待てるか」より、「待つ意味があるか」を考えます
まだ困っていない。眼鏡で十分生活できる。自分の水晶体の調節力を残したい。そういう理由があれば、待つ意味があります。
一方で、見えづらさのために運転や仕事、趣味を諦めているのに、ただ怖いから待っている。その場合は、我慢する時間そのものに意味があるのか、一緒に考えたいと思います。
目の手術ですから、怖いと思うのは当然です。
ただ、「怖い」という気持ちの中身は、人によって違います。
手術中に痛くないのか。
見えてしまうのが怖い。
失敗しないか心配。
手術後にちゃんと見えるのか不安。
通院や生活のことが気になる。
私は、まず何が一番怖いのかを聞くようにしています。
不安の原因が分かれば、一つずつ説明できます。
分からないことが分かってくると、思っていたより怖くなかった、と感じる方も少なくありません。
白内障手術は、怖くないふりをして受けるものではありません。
怖い気持ちがあっても構いません。
その怖さを一つずつ整理して、納得できたところで手術を考えればいい。
私はそう思っています。
「体の寿命と、目の寿命」のバランス
私は診察で、「体の寿命と、目の寿命のバランスを考えましょう」とお話しすることがあります。これは、年齢だけで手術を決めるという意味ではありません。
例えば80歳でも、とてもお元気で、旅行に行ったり、趣味を楽しんだり、まだまだこれからの生活を楽しみたい方はたくさんいらっしゃいます。90歳でもお元気な方はいらっしゃいます。そういう方が、白内障のために見えにくくなり、運転をやめる、外出を減らす、趣味を諦める。体は元気なのに、目の見え方だけが先に悪くなって生活の自由が失われていく。私はそれを「目の寿命が先に来てしまう」と表現することがあります。
もちろん、年齢だけで手術を勧めるわけではありません。全身の状態や生活状況によっては、無理に手術をしない方がよい場合もあります。でも、80歳でも90歳でもお元気で、この先も人生を楽しみたいのであれば、年齢だけを理由に白内障手術を諦める必要はありません。見えるようになることで、その先の人生をもっと自由に、快適に過ごせるのであれば、私は手術を考える意味は十分にあると思っています。
まとめ
白内障手術は、早ければ早いほど良いわけでも、遅ければ遅いほど良いわけでもありません。生活への支障、白内障の程度、調節力、隅角や偽落屑などの目の条件、そしてこれからどんな生活を送りたいのかを一緒に見て、その方にとって「今」が良い時期かを考えます。白内障手術の目的は、ただ視力表の数字を上げることではありません。見える時間を取り戻し、その人がこれからの人生をできるだけ自分らしく過ごせるようにすること。私はそこまで考えて、手術の時期を一緒に決めたいと思っています。
自然な受診・相談案内
「まだ手術しなくても大丈夫ですか?」「もう少し待ってもいいですか?」という相談だけでも構いません。手術を決めてから受診する必要はありません。今の目の状態と、これから送りたい生活を一緒に確認して、納得できる時期を考えていきましょう。
佐藤智樹