疾患と治療

多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズについて

白内障手術後は、取り出した水晶体の代わりに人工レンズを挿入します。人工レンズには、ピントが1か所に合う単焦点眼内レンズと、ピントが2か所以上に合う多焦点眼内レンズがあります。 多焦点眼内レンズは、ピントが2か所以上合うためメガネなしでより快適な生活ができるように開発されたもので、2007年に厚生労働省に承認され、現在までにさまざまな多焦点眼内レンズが登場してきました。

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術(多焦点白内障手術)は、2020年3月までは先進医療として行われ、先進医療特約に加入していれば保険給付の対象となっていましたが、2020年4月以降は先進医療から外れ、選定療養として行われるようになりました。

現在、当院では選定療養および自費診療での多焦点白内障手術を行っております。選定療養で行う多焦点白内障手術は、使用する多焦点眼内レンズや手術方法に制限があり、自費診療で行う多焦点白内障手術では、費用は高くなりますが、より性能が良い多焦点眼内レンズを使用することができます。また自費診療で行う場合は、手術の精度をより高めるための特殊器機を使用し、レーザー白内障手術で行うこともできます。

しかし、最新の多焦点眼内レンズを使用し、このような特殊器械やレーザー白内障手術を行っても、20代や30代の見え方には戻ることはできません。ピントが合う距離は数か所なので、そのほかの距離は少しぼやけますし、レンズの種類によっては単焦点眼内レンズに比べると、ピントが少し甘くなったり、夜間に車の対向車などのライトがにじんで見えたりする(グレア・ハロー)などの欠点がまだ残されています。

グレア・ハローがない夜間の運転のイメージ

グレア・ハローがある夜間の運転のイメージ

多焦点眼内レンズの種類とその特徴

現在、当院で使用している多焦点眼内レンズは下記です。

現時点では、遠くから近くまで全ての距離をはっきりと見ることができる眼内レンズはありません。当院では、患者様お一人お一人の生活スタイル(仕事や趣味など)に合わせて眼内レンズを選択しています。また、場合により左右の目に特徴の異なる眼内レンズを使うことで、両眼で遠くから近くまで快適にみえるようにするミックス&マッチ法を用いることもあります。

テクニスマルチ(+4D)

【選定療養 ・ 二焦点(回折型) ZMBタイプ】
光透過性は80%で、ピントは遠くと手元(33cm)の2か所に合いますので、遠くと手元はよく見えるという利点がありますが、パソコンや料理など少し離れた距離が見えづらい、夜間のグレア・ハローが見られるという欠点があります。乱視用レンズはありません。

向いているかた・向いていないかた
遠くと、読書・スマホ・裁縫などで30cm位の手元が見たいかたに向いていますが、料理やパソコンなど少し離れた距離はやや見えづらいです。手元30cmが見える利点よりも、40cmから遠くまでの全ての距離を裸眼で見たいかたは、以下のパンオプティクスやテクニスシナジーを検討してみてもよいでしょう。また、このレンズはグレアハローがあるため、夜間の運転が多いかたは注意が必要です。

パンオプティクス

クラレオン パンオプティクス 【選定療養 ・ 三焦点(回折型)】
光透過性は88%で、ピントが、遠方・60cm・40cmの3か所にあります。遠方、中間、近方がバランス良くみえるため、より自然な見え方になるという利点がありますが、やや手元が見えづらいことや、夜間のグレア・ハローがあるという欠点があります。乱視用レンズもあります。

向いているかた・向いていないかた
新聞・読書・スマホなどの手元や、料理・パソコン・楽器などの距離から遠方までの全ての距離を裸眼で見えたいかたに向いています。しかし、手元はテクニスマルチ+4.0Dにはやや劣りますので、暗いところや小さい文字などは老眼鏡が必要になることがあります。また、夜間のグレア・ハローがあるため、夜間運転が多いかたは注意が必要です。テクニスシナジーよりも夜間のグレア・ハローは少ないようです。

テクニスシナジー

【選定療養 ・ 焦点深度拡張+二焦点(回折型)】
光透過性は88%で、ピントが、遠方から手元約40cmまでの連続焦点(焦点深度拡張)となっていて中間の落ち込みがないのが特徴です。遠方、中間、近方がバランス良くみえるため、より自然な見え方になるという利点があります。夜間のグレアハローが出やすい欠点があります。乱視用レンズもあります。

向いているかた・向いていないかた
新聞・読書・スマホなどの手元や、料理・パソコン・楽器などの距離から遠方までの全ての距離を裸眼で見たいかたに向いています。手元30cmではテクニスマルチ+4.0Dに劣りますが、手元35-40cmではテクニスマルチ+4.0やパンオプティクスよりも少しみやすいようです。また、夜間のグレアハローはパンオプティクスよりもやや強く出やすいので夜間運転するかたには向いていません。

ビビティ

【選定療養 ・ 波面制御型(焦点深度拡張)】
光透過性は100%(単焦点眼内レンズと同程度)で、ピントは、遠方から手元約66cmまで連続的な焦点(焦点深度拡張)となっているのが特徴です。
遠方から中間の見え方を重視したレンズです。遠方の見え方は単焦点レンズとほぼ同等によく見え、夜間のグレア・ハローが少ないという利点がありますが、66cmより近い手元が見えづらいという欠点があります。乱視用レンズはありません。

従来の回折型とは異なる波面制御型(焦点深度拡張)という新しいコンセプトの多焦点眼内レンズで、厚生労働省より承認され、2023年6月の正式発売に先駆けて、当院では国内十数施設の先行使用施設として2023年4月より使用可能(先行発売)となりました。グレア・ハローが少ないのが特徴です(下記画像参照)。このデメリットが改善され、単焦点眼内レンズと同様のコントラストを維持できるため、今までの多焦点眼内レンズが適応にならなった症例にも、幅広く使用が期待できるレンズです。

向いているかた・向いていないかた
夜間運転が多いかた、および66cm以上離れた距離や遠方重視のかた、術後は手元66cm以内での細かな作業の場面ではメガネ装用しても良いかたが向いています。反面、読書やスマホなど近い距離を裸眼でハッキリ見たいかたには向きません。
光学シミュレーションによるグレア・ハローのイメージ

インテンシティ

【自費診療・ 五焦点(回折型)】
五焦点でありながら光透過率が約94%と非常に高いレンズで、遠くから近方(遠方/133cm/80cm/60cm/40cm)まで中間距離での落ち込みがなく見える構造になっています。夜間のグレアハローがあるという欠点はあります。乱視用レンズもあります。

向いているかた・向いていないかた
新聞・読書・スマホなどの手元や、料理・パソコン・楽器などの距離から遠方までの全ての距離を裸眼で見えたいかたに向いています。夜間のグレアハローは比較的少ないため、夜間の運転をするかたにも悪くはありません。このレンズは当院では最近導入し、実績がまだありません。

レンティスM plus ・M plus X

【自費診療・ 二焦点(分節状屈折型)】
光透過率が約95%と非常に高いレンズで、二焦点でありながら中間距離の落ち込みが少なく質の高いレンズです。レンティスにはMplus(遠方重視)とMplusX(近方重視)があることにより、必要に応じて左右眼で組み合わせることで遠くから手元約35cmまで連続してきれいに見えるようになります。また回折型ではないため夜間のグレアハローも少ないですが上下に光が少しにじむ特性を持ちます。乱視用レンズもあり、他のレンズと違い唯一0.01D刻みという完全オーダーメイドのレンズです。

向いているかた・向いていないかた
夜間の運転があまり多くなく、遠くから手元まで裸眼で生活したいかたに向いています。両眼とも強い角膜乱視があっても対応でき完全オーダーメイドで作成できます。夜間の光が上下ににじむ特性があるので夜間運転が多いかたには向きません。
レンティスMplusとMplusXの光エネルギーの分布

ミニウェル・ミニウェルプロクサ

【自費診療・ 焦点深度拡張(累進)】
光透過率が約94%と非常に高いレンズで、夜間のグレアハローほとんどないという利点があります。2021年に新しくミニウェルプロクサも登場し、これまでのミニウェルと左右眼で組み合わせることで、遠方から近方約30cmまで連続して見える構造となっています。ミニウェルには乱視用がありますがミニウェルプロクサには乱視用はありません。 ミニウェルプロクサは、従来のミニウェル(Mini Well Ready)特徴に加え、近方まで見えるように開発されたレンズです。プロクサも回折型ではないため夜間の光のにじみやまぶしさはほとんど出ず、夜間の運転に適しています。

向いているかた・向いていないかた
すべてのかたに向いていますが、夜間の運転が多く、遠くから手元まで裸眼で生活したいかたに向いています。ミニウェル(ミニウェルプロクサ)は両眼手術によって術後の見え方が良好となりますので片眼のみ手術予定の場合は対象外となります。またプロクサには乱視矯正用がありませんので、両眼とも角膜乱視が強い場合は対象外となります。
ミニウェル&ミニウェルプロクサ(左右眼組み合わせ)による距離別の視力

ミニウェルおよび他レンズでの夜間運転時の光のみえかた *イメージです


Extended Depth of Focus vs. Monofocal IOLs: Objective and Subjective Visual Outcomes. Journal of Refractive Surgery,2020 April-Vol36 p222-236より改変

多焦点眼内レンズの選び方について

眼内レンズの種類も多様化しており、その特徴もさまざまです。また、手術を受けられる患者様のご希望も、メガネをかけずに読書や編み物を楽しみたい、テレビやパソコンなどを楽しみたい、ドライブやゴルフなどのアウトドアを楽しみたいなど、さまざまです。

これら全てのご希望に添える眼内レンズは現在のところ存在しません。手術前に患者様のご希望を良く聞いて、それによりレンズの種類を決めていきます。

場合によっては、2種類の多焦点眼内レンズを組み合わせて手術を行ったり、単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズを組み合わせて手術を行ったりします。多焦点眼内レンズをご希望だった場合でも、ご希望に添えそうにない場合は、単焦点眼内レンズをお勧めしています。多焦点眼内レンズを検討されている場合は、術後の見え方のご希望に添えるよう眼内レンズ選びのお手伝いを致しますので、遠慮なく担当医にご相談下さい。

術後の軽度の乱視などの屈折誤差について

手術前に詳細に検査を行い、必要な場合は乱視用の多焦点眼内レンズを用いて、目標との屈折(近視・遠視・乱視)誤差を極力なくすよう、最善を尽くして白内障手術を行っていますが、全ての患者様で屈折誤差を完全になくすことはできません。

まれですが、屈折誤差のため手術前に予想したほど裸眼視力が出ないことがあります。眼鏡をかければはっきりと見えますが、この屈折誤差を治療したいとのご希望がある場合は、

①眼内レンズの入れ替え
②角膜輪部切開
③レーシックによるタッチアップ

のいずれかで対応しております。

当院で自費診療での多焦点眼内レンズ手術を受けているかたは、これらの追加手術は無料です。

タッチアップレーシックについて

当院では、最新の検査器機やレーザー白内障手術を用いて、術後屈折誤差(近視や乱視)を最小にするよう努力しておりますが、完全になくすことはできません。術後に残ったわずかな屈折誤差が気になる場合は、レーシックによる補正を行うことができます。

当院で自費診療での多焦点眼内レンズ手術を受けられた患者様は無料で行っておりますが、単焦点眼内レンズ手術を受けられた患者様、他院で手術を受けられた患者様は下記費用で行っております。

費用

2020年3月まで、先進医療として行っていた多焦点白内障手術は、2020年4月から選定療養として行うことになりました。これらの手術を行う場合は、通常の保険で行う診療費・白内障手術とは別に下記料金が必要になります。

選定療養を使用した多焦点白内障眼内レンズを用いて白内障手術を行う場合

テクニスマルチフォーカル220,000円(税込/片眼)
ビビティ340,000円(税込/片眼)
パンオプティクス340,000円(税込/片眼)
パンオプティクス(乱視用)390,000円(税込/片眼)
テクニスシナジー380,000円(税込/片眼)
テクニスシナジー(乱視用)430,000円(税込/片眼)

選定療養とは、患者様ご自身が選択して受ける追加的な医療サービスで、その分の費用は全額自己負担となります。令和2年4月より、術後のメガネ装用率の軽減を目的とした多焦点眼内レンズを使用する白内障手術は、厚生労働省が定める選定療養の対象となりました。

当院は多焦点眼内レンズの白内障手術を行う医療機関として届け出をしています。多焦点眼内レンズご希望の患者さまには診察時に詳細をご説明いたします。

自費診療で多焦点眼内レンズ+レーザーを用いて白内障手術を行う場合

手術費用乱視なし 片眼715,000円(税込)
乱視あり 片眼770,000円(税込)

自費診療となり、手術代・手術前検査・術後6か月までの診察・薬代を含んだ金額 です。

タッチアップレーシック(自費診療)

当院で多焦点眼内レンズ手術(自費診療)を受けられた場合無料
当院で単焦点眼内レンズ手術を受けられた場合
他院で白内障手術を受けられ紹介状がある場合
片眼55,000円(税込)
他院で白内障手術を受けられ紹介状がない場合片眼110,000円(税込)